

国民健康保険料を「ただ払うもの」として処理していると、年間で数万円単位の損をしている可能性があります。
国民健康保険料は3種類の保険分(医療分・支援金分・介護分)それぞれについて、「所得割」「均等割」「平等割」(自治体によっては「資産割」も)を合算して算出します。まず全体の計算構造を把握することが大切です。
所得割は、世帯の前年の総所得金額から住民税の基礎控除額43万円を差し引いた「賦課基準額」に、自治体が設定する料率を掛けて計算します。ここで非常に重要なのは、差し引ける控除が「基礎控除43万円のみ」という点です。所得税や住民税の計算では適用される扶養控除・配偶者控除・医療費控除・生命保険料控除といった各種所得控除は、国民健康保険料の計算にはまったく反映されません。つまり、子どもが3人いる世帯でも、扶養控除分が保険料に有利に働くことはありません。
賦課基準額の計算式は以下のとおりです。
| ステップ | 計算内容 |
|---|---|
| ① 給与所得を算出 | 給与収入 − 給与所得控除 = 給与所得 |
| ② 賦課基準額を算出 | 総所得金額等 − 基礎控除43万円 |
| ③ 所得割を算出 | 賦課基準額 × 自治体が定める料率 |
均等割は、加入者一人あたりに一律の金額が課されます。世帯の人数が増えるほど均等割の合計額も増える仕組みです。社会保険(協会けんぽなど)では扶養家族は無料で加入できますが、国民健康保険には扶養の概念がありません。子どもや配偶者も含め、世帯の全加入者にそれぞれ均等割が発生します。
平等割は1世帯あたりに定額で課される保険料で、自治体によって採用していない場合もあります。たとえば東京都新宿区は平等割を採用していませんが、北海道札幌市は採用しています。住んでいる自治体のホームページで確認するのが確実です。
このように保険料は「所得割 + 均等割 + 平等割」の合計で決まります。ただし、各区分には賦課限度額(上限額)が設けられており、2025年度は医療分66万円・支援金分26万円・介護分17万円、合計109万円が上限です。
国民健康保険料の計算は自治体ごとに料率が異なるため、正確な金額は自治体のホームページにあるシミュレーターや早見表で確認するのが実践的です。
参考:国民健康保険料の保険料・保険税の仕組み(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21517.html
「実際にいくらになるのか」がイメージできなければ、節税対策も立てにくいですよね。ここでは具体的な計算例を通じて、保険料の規模感を把握しましょう。
以下は、東京都新宿区(平等割なし・令和6年度の料率)を例に、35歳・独身・フリーランスが前年の総所得金額300万円だった場合の試算です。
まず賦課基準額を求めます。
> 300万円 − 43万円(基礎控除)= 257万円
次に各保険料を計算します。
| 区分 | 所得割 | 均等割 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 医療分 | 257万円 × 8.69% ≒ 223,333円 | 49,100円 × 1人 | 約272,433円 |
| 支援金分 | 257万円 × 2.80% ≒ 71,960円 | 16,500円 × 1人 | 約88,460円 |
| 介護分 | (40歳未満のため対象外) | − | 0円 |
年間合計:約360,893円(月額換算で約3万円)
年収300万円のフリーランスの場合、年間36万円前後の保険料負担が発生します。コンビニのコーヒー約3,600杯分、あるいは格安スマートフォン約3台分と考えると、決して小さくない金額です。
次に、もし45歳で家族4人(配偶者・子ども2人)、前年の総所得金額500万円の世帯の場合、介護分が加わり、均等割が4人分かかるため、年間保険料は80万円を超えるケースもあります。国民健康保険の負担が家計に与えるインパクトは大きく、正確な計算をベースに対策を考えることが重要です。
40歳以上65歳未満の加入者には、医療分・支援金分に加えて介護分が上乗せされます。介護分は対象者(40〜64歳)がいる世帯のみに課され、65歳以上になると介護保険料が別途徴収されるため介護分は外れます。年齢変化で保険料が変動する点も把握しておきましょう。
参考:国民健康保険料の計算方法(三菱UFJ銀行)
https://www.bk.mufg.jp/column/others/b0099.html
国民健康保険料は、所得税法の「社会保険料控除」に分類されます。これが節税の核心部分です。
社会保険料控除の最大の特徴は、上限がない点です。生命保険料控除のように「新契約は最大4万円まで」といった制限がなく、1年間に実際に支払った全額をそのまま所得から差し引けます。年間50万円支払っていれば50万円、年間100万円支払っていれば100万円が丸ごと控除対象です。
節税効果は所得税率によって変わります。以下は年間40万円の国民健康保険料を支払った場合の節税シミュレーションです。
| 課税所得の目安 | 所得税率 | 所得税の節税額 | 住民税の節税額(一律10%) | 合計節税額 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 2万円 | 4万円 | 約6万円 |
| 330万円〜695万円 | 20% | 8万円 | 4万円 | 約12万円 |
| 695万円〜900万円 | 23% | 9.2万円 | 4万円 | 約13.2万円 |
所得が高いほど節税効果は大きくなります。つまり、高所得のフリーランスや個人事業主ほど、この控除を確定申告で確実に申告することの重要性が高まります。
申告漏れが起きやすいケースとして、退職して年度の途中から国民健康保険に加入した人が挙げられます。会社員時代は年末調整で社会保険料が自動的に控除されていたため、自分で申告する習慣がなく、退職後の国民健康保険料を申告し忘れるケースが実際に少なくありません。見落としていた場合は、5年以内であれば還付申告が可能です。
家族の保険料も控除できます。生計を一にする配偶者や親族の国民健康保険料を実際に支払った場合、支払った人が全額を社会保険料控除として申告できます。重要なのは「誰の名義か」ではなく「誰が実際に払ったか」という点です。
参考:国民健康保険料の確定申告での控除方法(創業手帳)
https://sogyotecho.jp/kokumin-kenko-hokenryo-kojo/
所得が少ない世帯には、国民健康保険料の均等割(および平等割)を自動的に軽減する制度があります。申請なしで適用されるため、対象かどうかを確認するだけで保険料を大幅に減らせます。
軽減制度は下の表のとおりです。
| 軽減割合 | 世帯の所得基準(世帯主+加入者全員の合計所得) |
|---|---|
| 🔵 7割軽減 | 43万円 + 10万円 ×(給与・年金所得者数 − 1)以下 |
| 🟡 5割軽減 | 43万円 + 30.5万円 × 加入者数 + 10万円 ×(給与・年金所得者数 − 1)以下 |
| 🟠 2割軽減 | 43万円 + 56万円 × 加入者数 + 10万円 ×(給与・年金所得者数 − 1)以下 |
軽減の基準が原則自動適用される、というのがこの制度の大きなポイントです。ただし、自動適用を受けるためには役所が所得情報を把握している必要があります。収入がゼロだった年も含め、毎年、確定申告または住民税の申告を行うことが条件です。申告をしていないと「所得不明」として軽減が受けられない場合があります。
7割軽減が適用されると、均等割の7割が免除されます。たとえば均等割が年間6万円の場合、7割軽減なら4.2万円が免除され1.8万円の負担で済みます。これを家族4人分で計算すると、24万円の均等割が7.2万円まで圧縮される計算です。影響は非常に大きいですね。
さらに、未就学児(6歳未満)がいる世帯は追加の優遇措置があります。世帯の軽減率が適用されたうえで、さらに未就学児の均等割が5割軽減されます。7割軽減世帯の未就学児は実質8.5割軽減(1.5割の負担)になり、事実上ほとんど負担がなくなります。
また、失業・解雇・倒産・雇い止めなど、自分の意思によらず仕事を失った「非自発的失業者」には特例軽減制度があります。この場合は申請が必要で、前年の給与所得を30/100に換算して保険料を計算する特例が受けられます。収入の急減時には必ず自治体窓口に相談しましょう。
参考:保険料の軽減・減免(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21517.html
節税効果を確実に受けるには、確定申告での記入方法と対象期間の正確な理解が不可欠です。
対象期間は「暦年」が基準です。 つまり、その年の1月1日〜12月31日の間に「実際に支払った」金額が控除対象になります。注意したいのは、国民健康保険の保険料は「年度(4月〜翌3月)」単位で計算されますが、確定申告の控除対象期間とは一致しないという点です。
たとえば、12月分として賦課された保険料を翌年1月に支払った場合、その金額は「翌年の確定申告」の控除になります。納入通知書の年間賦課額をそのまま申告書に書かないよう注意してください。正しい金額は、毎年1月下旬〜2月初旬に自治体から届く「納付済額のお知らせ」で確認します。
確定申告書への記入方法は以下のとおりです。
e-Taxを使う場合は「所得控除の入力」→「社会保険料控除」を選択し、保険の種類・支払先の自治体名・金額を入力するだけで、第一表・第二表に自動反映されます。
証明書の添付は不要です。 国民年金保険料は日本年金機構から「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」が送られてきて添付が必要ですが、国民健康保険料は添付書類が不要です。ただし、税務署から確認を求められる場合に備えて、領収書・通帳履歴・通知書は5年間保管しておくことを推奨します。
納付済額のお知らせが届かない・紛失した場合でも、市区町村の国民健康保険窓口で「納付証明書」を無料で発行してもらえます。マイナポータルと連携している自治体ではオンライン確認も可能です。
確定申告の期限は翌年3月15日です。期限が原則です。ただし、払い過ぎた税金の還付を受ける「還付申告」は、過去5年分まで遡って申告できます。過去に申告を忘れていた場合も諦めないでください。
参考:確定申告での社会保険料控除の申告方法(freee)
https://www.freee.co.jp/kb/kb-kakuteishinkoku/insurance/
国民健康保険料は「計算方法」「控除の申告」だけでなく、保険料そのものを合法的に下げる工夫を組み合わせると、さらに効果的な節税が可能です。
まず注目したいのが、青色申告特別控除(最大65万円)との連携です。個人事業主・フリーランスが青色申告でe-Taxを使うと最大65万円の所得控除が受けられますが、この控除は国民健康保険料の計算に使う「総所得金額等」の算定において、事業所得を引き下げる効果があります。
たとえば事業所得が300万円の方が青色申告特別控除65万円を適用すると、所得が235万円になります。賦課基準額は235万円 − 43万円 = 192万円となり、基礎控除のみ適用した300万円 − 43万円 = 257万円と比較して、賦課基準額が65万円下がります。所得割率を仮に12%(医療分+支援金分)とすると、年間保険料が約7.8万円削減される計算です。これは使えそうです。
次に、国民年金保険料の2年前納との活用です。国民年金保険料を2年分まとめて前払いすると割引が受けられ、さらに支払った年の社会保険料控除として全額を申告できます。年収が一時的に高くなった年に前納することで、所得税率の高い年に多くの控除を受けることができます。
また、世帯主でない家族が保険料を実際に支払うことで、所得の高い人の控除として申告する方法もあります。国民健康保険料の控除は「誰の名義の保険料か」ではなく「誰が実際に支払ったか」で決まります。生計を一にする家族が国民健康保険に加入している場合、所得の高い世帯主がまとめて支払い、控除申告することで節税効果が最大化されます。
さらに、退職後の健康保険の選択も重要な判断ポイントです。退職後は国民健康保険か「任意継続」(退職前の健康保険に最長2年加入できる制度)かを選べます。一般的には、年収が400万円程度以下の単身者は国民健康保険のほうが安くなることが多く、年収500万円以上や扶養家族が多い場合は任意継続が有利になる傾向があります。退職直後は収入が減るケースが大半なので、両者の保険料を試算して判断することが原則です。
これらの方法を1つ組み合わせるだけでも効果がありますが、複数を組み合わせることで年間数万円〜数十万円単位の節税につながる場合があります。ただし、マイクロ法人設立などの高度な手法は必ず税理士に相談のうえ実施してください。
参考:国民健康保険料を大幅削減する9つの方法(税理士解説)
https://e-zeirishi.com/archives/national-health-insurance-reduction-9-methods/