

2025年改訂版『肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』では、対象ごとに異なるリスク評価モデルの活用が明確に推奨されています。 周術期患者にはCapriniスコア、内科入院患者にはPaduaスコア、がん患者にはKhoranaスコアが対応します。 ツールを使い分けることが、見逃しゼロへの第一歩です。
関連)https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/12/08/153032
Capriniスコアは年齢・手術の侵襲度・既往歴など複数の因子を点数化してVTEリスクを層別化する方式で、合計5点以上が高リスクと定義されています。 例えば「75歳以上」の患者には3点が加算され、「股関節または膝関節の大手術」では一気に5点加算される仕組みです。 「VTEの既往あり」も同じく3点加算の重要因子で、複数リスクが重なると点数は急上昇します。
関連)https://www.jsth.org/wordpress/438-2/
| 点数帯 | リスク区分 | 目安の対応 |
|---|---|---|
| 0~1点 | 低リスク | 早期離床・積極的な運動のみ |
| 2~4点 | 中リスク | 弾性ストッキング or IPC |
| 5点以上 | 高リスク | IPC + 予防的抗凝固薬の併用 |
スコアが5点以上なら、機械的予防だけでは不十分です。 高リスク患者には弾性ストッキングやIPCに加えて予防的抗凝固薬の併用が推奨されており、出血リスクとのバランスを評価した上で選択する必要があります。 Paduaスコアでは4点以上が高リスクとされ、90日以内のVTE発症率が約11%に達するとされています。 内科入院患者でも見逃さないことが原則です。
2025年改訂版ガイドラインで大きく変わった点のひとつが、中リスク患者における機械的予防法の位置づけです。 従来は弾性ストッキング(GCS)と間欠的空気圧迫法(IPC)が並列で示されていましたが、中リスクではIPCの推奨度合いが高まりました。 GCS単独では対応できない状況がある、ということですね。
関連)https://cardinalhealth-info.jp/case_report/link-vol-24/
IPCは下腿を周期的に加圧・減圧することで静脈血流を促進し、血液の停滞を防ぐ装置です。弾性ストッキングが静的な圧迫であるのに対し、IPCは動的に静脈還流を高める点で作用機序が異なります。 特に術後で下肢を積極的に動かせない患者において、IPCは有効な選択肢になります。
出血リスクが高い患者など、薬物療法を使えない場面ではIPCが特に重要になります。薬物が使えないときこそ、IPCを確実に行うことが条件です。 日本静脈学会の「静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2024」でも、VTE予防における圧迫療法の重要性が強調されています。
参考:2025年ガイドライン改訂のポイントをVTE予防における圧迫療法の視点から解説しているページです。
Link Vol.24 – 2025年版ガイドラインを踏まえた見直しのポイント(Cardinal Health)
2025年改訂版では、DOACの国内エビデンスがガイドラインに色濃く反映されました。 低用量DOAC(経口Xa阻害薬)が予防的投与の選択肢として加わり、従来のヘパリン系薬剤との比較が臨床現場で現実的になっています。 これは使えそうな変化です。
薬物予防の主な選択肢は以下のとおりです。
重要なのは、出血リスクとのトレードオフを必ず評価することです。 抗凝固薬を使用すべきでない患者(活動性出血、重篤な出血素因がある場合など)にはIPCや弾性ストッキングを優先します。 つまり「薬物か機械か」の二択ではなく、リスクに応じた組み合わせが原則です。
超高リスク患者(整形外科の大手術、骨盤・下肢骨折、多発外傷、脊髄損傷など)では、LMWHとIPCの併用が特に有効とされています。 一方、がん患者の予防的抗凝固については、KhoranaスコアでリスクをスクリーニングしてからLMWHまたはDOACを選択する流れが推奨されています。
関連)https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/12/08/153032
参考:DVTの薬物・機械的予防法についてリスク別に整理されたMSD Manualsの解説ページです。
深部静脈血栓症(DVT)の予防 – MSD Manualプロフェッショナル版
ガイドラインはあくまで「推奨」であり、すべての症例に一律に適用する義務はない、と考えている医療者は少なくありません。厳しいところですね。しかし現実は異なります。
VTE予防ガイドラインに従った対応を行わなかった場合、「特段の合理的理由がない限り、医師としての合理的裁量の範囲を逸脱する」と判断した裁判例があります(東京地裁平成23年12月9日判決)。 つまり、ガイドライン不遵守は法的リスクに直結するということです。
関連)https://fukuzaki-law.jp/iryouhoumu/180/
具体的には、変形性股関節症の術後患者が深部静脈血栓症・肺塞栓症で死亡したケースで、予防処置の義務が問われた判決が出ています。 「ガイドラインを知らなかった」「症状がなかった」という弁明は、裁判では通じない可能性があります。 知っていると法的リスクを回避できる、という性質の情報です。
関連)https://www.medicalonline.jp/medcase/download?id=216
ガイドライン遵守の記録を残すことも重要です。リスク評価スコアの記載、選択した予防法とその理由、患者・家族への説明内容をカルテに明記することで、万が一の場面での証明力が高まります。 記録が条件です。日本血栓止血学会の予防ガイドラインページも、院内マニュアル整備の参考になります。
関連)https://fukuzaki-law.jp/iryouhoumu/180/
参考:ガイドライン不遵守が医療訴訟においてどう判断されるか、裁判例を踏まえて詳しく解説されています。
肺血栓塞栓症等に関する診療ガイドラインは当時の医療水準か(福崎法律事務所)
参考:日本血栓止血学会が公開しているVTE予防ガイドラインのページです。リスクレベル別の推奨予防法が表形式で確認できます。
手術患者に注目が集まりがちなDVT予防ですが、非手術の内科入院患者や妊産婦へのリスク対応は、臨床現場で特に見逃されやすいグループです。 2025年改訂ガイドラインでは、非手術入院患者への予防対策強化が明確に求められるようになりました。 意外ですね。
関連)https://cardinalhealth-info.jp/case_report/link-vol-24/
内科入院患者にはPaduaスコアを使ったリスク評価が標準です。 心不全・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・急性感染症で入院した患者、長期臥床状態の患者はいずれも中〜高リスク群に該当します。 見落としゼロが原則です。
関連)https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/12/08/153032
妊産婦については、2025年ガイドラインで対象別評価モデルとして独立したカテゴリが設けられています。 妊娠中は凝固能亢進・静脈還流障害・骨盤内圧迫が重なり、VTEリスクが非妊娠時の4〜5倍に上昇するとされています。 産後もリスクが続く点を忘れないようにする必要があります。
関連)https://blog.goo.ne.jp/sarunashi/e/354a6fa13ca9cbe5e5f8752f2ac71aac
大腿静脈の血流速度は、足関節底背屈運動だけでは十分に高まらないことが最近の研究で示されています。 大腿部を含めた介入(適切なパンツ型圧迫など)の有効性にも注目が集まっており、ベッドサイドでの実践的なアプローチの幅が広がっています。 これは使えそうな情報です。
関連)https://www.rishou.org/activity/evidence-20250302
参考:2025年改訂版VTE予防ガイドラインに基づく対象別リスク評価アプローチを詳しく解説しています。Capriniスコア・Paduaスコア・Khoranaスコアの一覧表も掲載。