

トリプタンを第一選択にしている医師でも、実は約30~40%の患者でトリプタンが無効または禁忌であることを見落としがちです。
片頭痛の急性期治療薬は、頭痛の重症度に応じた「層別治療」が国際的に推奨されています。 軽度〜中等度の頭痛にはアセトアミノフェン(カロナール)やNSAIDs(アスピリン・ナプロキセン・セレコックス)が第一選択となり、中等度〜重度の頭痛、またはNSAIDsが無効だった場合にはトリプタン系薬剤が推奨されます。
関連)https://www.jhsnet.net/GUIDELINE/2/2-2-2.htm
層別治療が原則です。
以下に主要な急性期治療薬を整理します。
| 薬剤カテゴリ | 主な薬剤名(一般名) | 対象重症度 |
|---|---|---|
| アセトアミノフェン | カロナール(アセトアミノフェン) | 軽度〜中等度 |
| NSAIDs | アスピリン、ナプロキセン、セレコックス | 軽度〜中等度 |
| エルゴタミン製剤 | カフェルゴット配合錠 | 中等度(再燃例) |
| トリプタン系 | スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン | 中等度〜重度 |
| ジタン系 | ラスミジタン(レイボー) | 中等度〜重度(心血管禁忌例) |
| ゲパント系 | リメゲパント(ナルティーク) | 中等度〜重度(トリプタン不応例) |
トリプタン系薬剤は国内で5種類が使用可能で、それぞれ作用発現速度・持続時間・再燃率・剤形が異なります。 「どのトリプタンでも同じ」は禁物です。
代表的な違いを以下にまとめます。
| 商品名 | 一般名 | 作用発現 | 持続時間 | 剤形の特徴 |
|---|---|---|---|---|
| イミグラン | スマトリプタン | 速い | 短め | 錠・注射・点鼻 |
| ゾーミッグ | ゾルミトリプタン | 速い | 中程度 | 錠・口腔内崩壊錠 |
| レルパックス | エレトリプタン | 中程度 | 長め | 錠のみ |
| マクサルト | リザトリプタン | 速い | 中程度 | 錠・RPD錠(口溶け) |
| アマージ | ナラトリプタン | 遅い | 最長 | 錠のみ |
速効性を重視するならスマトリプタン注射・リザトリプタン、再燃が問題になるならナラトリプタンを検討するという棲み分けが実践的です。
注意点が1つあります。トリプタンはCGRPの放出そのものを抑制する機序を持ちますが、血管収縮作用も有するため、虚血性心疾患・脳梗塞・コントロール不良の高血圧・妊婦には禁忌です。 心血管リスクのある患者にはラスミジタン(レイボー)やリメゲパント(ナルティーク)が代替として候補に挙がります。
関連)https://www.daidaicl.com/migraine-new/
また、「前兆が出たときにすぐ飲む」という行動が頭痛を悪化させる場合があります。トリプタンは三叉神経終末からのCGRP放出を抑制する薬であるため、前兆期(CGRP放出前)に使用すると効果が減弱するという報告があります。 痛みが確立し始めた段階での服用が適切です。
関連)http://ishimori.clinic/migraine_medications.html
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛発作の主要な疼痛伝達物質であり、これを標的にした製剤が急速に実臨床に普及しています。 これは使えそうです。
関連)https://www.daidaicl.com/migraine-new/
現在国内で使用可能または承認済みのCGRP関連製剤を整理します。
特筆すべきは、ナルティーク(リメゲパント)が「急性期治療薬」と「予防薬」の両方の適応を持つ初めての薬剤である点です。 隔日内服で予防効果が期待でき、注射が困難な患者や抗CGRP抗体薬の効果が限定的な例に適応が広がります。
関連)https://neuro-machida.jp/blog/post-349/
従来の予防薬(ロメリジン・プロプラノロール・バルプロ酸)との違いは、CGRP経路を直接ターゲットにしている点にあります。 一般的な予防薬は降圧薬・抗てんかん薬の副用途であるため、患者への説明や服薬アドヒアランスに課題がありました。CGRP関連薬はその課題を軽減できる選択肢です。
予防薬の開始基準として、一般に「月4回以上の発作」「週1回以上の頭痛日数」「急性期治療薬が無効または禁忌」「生活・就労への著しい支障」などが挙げられます。 月4回が目安です。
既存予防薬の選択肢を以下に整理します。
| 薬剤名(一般名) | 薬剤カテゴリ | 主な注意点 |
|---|---|---|
| ロメリジン(ミグシス) | Ca拮抗薬 | 眠気・体重増加 |
| プロプラノロール(インデラル) | β遮断薬 | 喘息・心ブロックに禁忌 |
| バルプロ酸(デパケン) | 抗てんかん薬 | 催奇形性・肝障害に注意、妊婦禁忌 |
| アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬 | 緑内障・前立腺肥大に禁忌 |
| カンデサルタン | ARB | 降圧薬としての副作用に注意 |
予防薬の効果判定には少なくとも2〜3か月の継続が必要で、この期間に急性期治療薬の使用頻度が月10日を超えると薬物乱用頭痛(MOH)に移行するリスクが高まります。 MOHに陥ると予防薬の効果も減弱するため、急性期薬の過剰使用には特に注意が必要です。
関連)https://piccolo-clinic.com/cms/migraine-otc-painkiller/
予防薬開始時に患者へ伝えるべき重要な情報が1つあります。「この薬は頭痛が起きてから飲むものではない」という説明です。既存予防薬に慣れていない患者は頓服と混同しやすく、正しい内服指導が治療成功のカギを握ります。
参考:片頭痛の急性期・予防薬の推奨に関する日本頭痛学会のガイドライン解説(層別治療の根拠を参照可能)
日本頭痛学会:片頭痛の急性期治療薬の種類と推奨(日本頭痛学会ガイドライン)
急性期治療薬を「月10日以上」継続して使用すると、薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache:MOH)に移行するリスクが生じます。 これは片頭痛治療で最も見落とされやすい落とし穴の一つです。
関連)https://piccolo-clinic.com/cms/migraine-otc-painkiller/
厳しいところですね。
特にNSAIDsやエルゴタミン製剤はトリプタンよりMOHへの移行リスクが高いとされ、市販薬も含めた月10日以内の使用制限が安全の目安です。 「少し痛くなったらすぐ飲む」を習慣にしている患者は要注意です。
関連)https://piccolo-clinic.com/cms/migraine-otc-painkiller/
MOHが疑われる場合、まず急性期薬の過剰使用を中止し、離脱症状を管理しながら予防薬を導入するというアプローチをとります。CGRP関連製剤(エムガルティ・アジョビ・アイモビーク)はMOH合併の慢性片頭痛にも一定の有効性が示されており、このような難治例でも選択肢になりえます。
関連)https://www.daidaicl.com/migraine-new/
医療従事者として患者の頭痛日誌・薬使用日誌の確認が処方改善への最短ルートです。市販薬も含めた月間使用日数を毎回確認する習慣が予防につながります。急性期薬の使用が月10日を超えていれば、予防薬導入の積極的な検討タイミングと判断するのが原則です。
関連)https://piccolo-clinic.com/cms/migraine-otc-painkiller/
参考:薬物乱用頭痛と片頭痛治療薬の使用上限に関する解説
片頭痛の市販薬(OTC)使用と薬物乱用頭痛リスク|月10日以内の根拠